大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)631号 判決 1987年8月07日

控訴人

行岡博文

右訴訟代理人弁護士

小畑実

桜井健雄

正木孝明

井上英昭

被控訴人

山本信男

主文

一  原判決を取消す。

二  本件の大阪地方裁判所へ差戻す。

理由

一控訴人が当裁判所に提出した控訴状及び準備書面(本件の送達関係についての不服を記載した分)は、別紙のとおりである。

二当裁判所の判断

1  一件記録及び当裁判所に対する控訴人本人の供述に基づき、職権をもつて調査すると、これまでの訴訟の経過及び送達関係は次のとおりであると認められる。

(1)  昭和六一年四月二六日、被控訴人は控訴人を相手どり本訴を提起し、訴状を大阪地方裁判所に提出(訴状には控訴人の住所として後記「東淀川区の住宅」が記載されている)

(2)  同年五月一八日控訴人は住所を大阪市東淀川区東中島四丁目二番二一号(以下「東淀川区の住宅」という)から同市東区谷町二丁目二五番地の一大手前ストークマンション六〇三号(以下「東区の住宅」という)へ移転

(3)  同年六月五日東淀川区の住宅へ訴状副本及び第一回口頭弁論期日呼出状等(以下「訴状等」という)を特別送達(送達不能)

(4)  同年一七日控訴人は東淀川区役所へ右の転出を届出

(5)  同月二三日被控訴人から執行官送達の上申書提出

(6)  同月二八日控訴人から東区役所へ転入を届出

(7)  同年七月二三日、三一日、八月二日、五日、九日の五回にわたり東淀川区の住宅へ訴状等を執行官送達(すべて送達不能)

(8)  同年八月一一日被控訴人から民訴法一七二条の郵便に付する送達の上申書提出

(9)  同月二〇日被控訴人から住民票写を添付して東区の住所へ送達方上申書提出

(10)  同月二七日東区の住所へ訴状等を特別送達したところ第三者(隣人)である津村忠臣が同居人として受領(その後同人は右訴状等を控訴人へ手交できず)

(11)  同年九月五日右津村より訴状等の返還をうけて郵便局から裁判所へ返送

(12)  同月一七日東区の住所へ訴状等を執行官送達(送達不能)

(13)  同月二〇日東淀川区の住宅へ訴状等を特別送達(送達不能)、同年一〇月二日同所へ郵便に付する送達(郵便局における保管期間経過後裁判所へ返戻)、同時に通常郵便(封書)で訴状等を書留郵便により発送した旨の通知書を送付

(14)  同年一〇月一五日第一回口頭弁論期日(控訴人不出頭のまま訴状が陳述されて弁論終結)

(15)  同年一一月二六日判決言渡(欠席判決。判決書上は控訴人の住所として東淀川区の住宅を表示)

(16)  同年一二月一七日東淀川区の住宅へ判決正本を執行官送達(送達不能)

(17)  同月二三日東淀川区の住宅へ判決正本を郵便に付する送達(郵便局における保管期間経過後裁判所へ返戻)、同時に通常郵便(封書)で判決正本を書留郵便により発送した旨の通知書を送付

(18)  昭和六二年二月二四日執行官が強制執行のため東区の住所へ臨場し、控訴人に出会い、動産を差押えるとともに、建物明渡の執行を予告し、動産競売期日及び建物明渡の執行予定日を三月二五日と告知

(19)  同年三月一八日控訴人は司法書士に教示を受け、判決の謄写依頼をなし、判決写を入手し、判決内容を了知

(20)  同月二〇日弁護士に事件を依頼し、同日控訴状を大阪高等裁判所に提出(なお控訴人は現在に至るまで訴状等及び判決正本を未受領である)

2  右の事実関係及び控訴人本人の供述によれば、控訴人機械船舶設計等の自営業を営む四一才の独身の男性で、住所以外に営業所、事務所を有さず、他に同居の家族もなく、四戸一棟の長屋である東淀川区の住宅に一人住まいしていたが、本件係争事件の発生に伴ない係争建物である東区のマンションに転居して建物を監視することに決め、昭和六一年三月一五日頃家財道具の大半を、同年五月一八日頃残りの家財道具を同マンション六〇三号室に運び込み、同所に転住し、以後今日まで同所で生活していること、東淀川区の住宅には日常生活に必要な家財類はなく、控訴人が知人に植木の水やりを依頼しているほか住む者はなく、空家となつていた事実が認められるから、原審において訴状等の送達が開始されることになつた時期以降における控訴人の住所は、東区谷町にあつたものであり、東淀川区の住宅は、住所、居所のいずれにも当たらないと認めるのが相当である。

3  もつとも、前記のような送達の経過並びに東淀川区の住宅に対する執行官送達報告書には、「同住宅に表札はないが、隣人に問い合わせたところ、控訴人は同所に単身で起居しているもようである」とか、「隣人は、朝早く控訴人が植木に水やりをしている姿を見かけた、と述べた」とかの記載があること(隣人は控訴人の知人を控訴人と誤認したものと思われる)及び東区の住所に対する執行官送達報告書には、「表札はあるがガスの供給を停止されており、隣家にて尋ねると最近は誰の姿も見かけぬとのことであつた」との記載があること(控訴人の供述によれば当時控訴人は早朝家を出て夜半に帰るという生活振りであつたという)にかんがみると、原審裁判所が東淀川区の住宅こそ控訴人の住所又は居所であると認めたのは無理からぬところであるが、結果として客観的な事実関係が前記のとおりであつた以上、同所へ宛ててなした郵便に付する送達を法律上の要件をそなえたものとみることはできない。

4  以上のとおりであるとすると、原審裁判所が民訴法一六九条の定める送達場所のいずれでもない東淀川区の住宅へ訴状並びに判決正本を郵便に付する送達をした手続は、同法一七二条、一七一条、一六九条に違背していて法律上違法であり、送達の効力を生じなかつたものといわなければならない。

5  すると、本件については、訴状の送達から審理をやりなおす必要があるというべきであるから、原判決を取消して本件を原審裁判所へ差戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官今中道信 裁判官仲江利政 裁判官佐々木茂美)

別紙 控訴の趣旨

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人の請求はいずれもこれを棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

控訴の理由

一、原判決は控訴人の何等の関与もなくなされたものであり、取り消されるべきである。

なお、控訴期間を遵守しえなかつた事情については追つて詳細に陳述する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例